紙丑堂の業務日誌

ぼんやりしがち

2023年7月~2024年2月上旬の映画感想メモ

Mastodonからサルベージした分。リハビリ感が凄い。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』『きさらぎ駅』『NOPE』『死刑にいたる病』『インシディアス 赤い扉』『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー(2022)』

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(新しいほう)

クローネンバーグ、わかるときは問答無用でわかるのが空恐ろしいなと感じた。昔より説明する気もなくしていて、説明も設定をそのまま喋らせるのが堂に入りすぎている。もう何も怖いものないんじゃないかこの人。
それにしても、そもそも飯食わない(食えないしお腹空かない)上に更に嚥下がド下手で毎食2時間コースだった幼い頃の感覚をありありと思い出してえづきそうになって苦しかったよ…。最後の涙はあれだよな、出そうで出なくてトイレで苦しみまくったあとの解放の瞬間の涙だよな……。
2024年2月3日

インシディアス 赤い扉』

褒めてない…。
見終わって真っ先に思ったのが、ストーリーのファン向け以上のものはなく、完全に閉じちゃったなーということだった。
このシリーズは作品ごとに色を変えるのでそれなりに楽しみはしていたが、ここまで守りに入って終わるとは思っていなかったので逆に意表を突かれた。いや、ホラー的な「!」もワンシーンくらいあったはずなんだけど、見終わる頃には忘れてしまった…。美術の先生(サクセッションの元妻のひとだよね)がかなりクソな授業してるのはどうなんだ。それと父親だけが柱だったという落とし所もどうなんだ。最後ガクッてなっちゃったよ。せっかくファミリー推ししてきたのに!「男になれることだ!」→「シ〜〜〜ン」をやったのに!のに!そこに持ってくんだ!
まあ、ともあれ終わって良かったですね。スペックスとタッカーのコンビはブルックリン99方式のホラーコメディで続けてくれてもいいんだが…。
2023年10月15日

『死刑にいたる病』

あまりにもしょーーーーーもない話でびっくりした。
サイコパス”の怖さエグさを楽しみに来る観客が殆どだろうからそういうやつなんでしょという思い込みで観ていたのだが、気合入った暴力描写は冒頭だけで、あとはやたら腰が引けてて何がしたいんだよと訝しんでいたところ、最終的には阿部サダヲのアイドル映画に落ち着いたので超納得した。理解。
ただ、感想検索したらこれでも「怖すぎる」みたいなのが散見されたので、単に見世物のエグみがどんどん薄味になってるだけかもしれない。
そのほか、若い世代がおっさんの立ちションシーンを立ちションであると理解できていなさそうなツイートしてるのを見つけてめちゃくちゃ笑った。もう珍しい景色になってんだね。そっかー。
2023年8月31日

『NOPE』

めーちゃめちゃ面白かった。前半のやりすぎなくらいのスローペースと主人公の無口さが、後半の転調のなかで効いてくるのすごく良かった。『未知との遭遇』的なUFOモノの恐怖と怪獣映画としてのスペクタクルが見事にリミックスされていて興奮したし、何よりnopeちゃん(映画内ではGジャンという馬の名がつけられていたけど、ぜったいnopeちゃんと呼びたい愛らしさがあの子にはある)の性質が実に愛らしくて良かった。好き嫌い多いとかヒラヒラしたカラフルなものが苦手とか、かわいすぎるやろ……。
nopeちゃんの声がじつは食われた人々の苦悶の叫びの集合体だったと判明するくだりは、巨大生物モノのなかでもかなり上位に位置するくらい気に入った。
画角が途中で変わっていたが、それも映画愛だけではなく技術面からの必要に駆られてのことがわかるだけに映画館で観なかったことを後悔したりもした。
映画が常に見る/見られることの快感と暴力に忠実な芸術であることを意識しつつ、その歴史からオミットされ続けた自分たちのアイデンティティをきっちり主張する手法が堂に入っていて、『アス』の雑さが嘘みたいに丁寧に重ねられた比喩も巧み。撮ることへの異常な執着も抜け漏れなく盛り込み、死角のない愛に溢れたエンタメに仕上げる手腕を堪能した。
2023年8月6日

『きさらぎ駅』

確かに底抜けと呼ぶには色々業界事情を伺わせるタイプの無理矢理が目についたけど、アイディア自体は面白かった。ループものRTAは相性が良いので正解だとおもうが、それならこの話でいちばん面白いのはラスト以降の「同じ攻略情報を持つ者同士のバトル」であるはずで、であるなら前半の語り(騙り)の、いちおうホラー見せておくか〜感あふれる誰も喜ばないサスペンスをもう少し省略して手短に済ませて、高周回RTAにしてしまったほうが面白くはなったとおもう。
それはさすがにポップコーンムービーとしてお金出してる人たちから求められてた方向性と違ってたのかな。ちょっと勿体なかった。
2023年7月29日

『プロミシング・ヤング・ウーマン』

すごい良かった。 何より主人公が最初から死んでるし、それを隠しもしない美術が最高に良い。
カサンドラカサンドラ!)の時間は事件を境にズルズルと停滞し、止まり、映画の開始時点で時はもう流れていない。
これは、彼女を愛する人々から寄せられる復活への期待を無視して、生ける屍が死者のまま成すべきことを為してようやく終わりに至る物語だ。
話は逸れるが、被害者が死んで終わる終わる物語は沢山だという意見を最近よくみかける。もっともだと思うと同時に、その人たちが忘れてい視点がある。死にたい気持ちだ。この映画を観たがる多くの“被害者”たちの、死んでしまいたい願望を、この映画は代わりにやり遂げてくれたように私は感じた。それは、似て非なる痛みを分かち合う者たちだけに許された優しさのように私には感じられた。
時々死者に戻ってしまって途方にくれるカサンドラが、並んだ車の運転手のフロントガラスをぶち壊したあと、行き場をなくしたかのように路上に立ち尽くすシーンへの半端ないシンパシー。そのショットをあんなふうに即物的、でも美しく撮ってくれる蛮勇のような優しさに、私は泣いた。
そういえば、登場人物のなかにもう一人ほぼ死んでいるやつがいるが、それが実は悪役扱いになりがちな弁護士(花の枯れ方見た…?美しい…)というのも、最後の最後に主犯に手錠をかけるのが女性というのも非常によかった。そして、バリエーション豊かなようでいて「またおまえか」と言いたくなるクソ野郎共の典型っぷりもとても巧み。
中心にあるのがニーナの不在と思わせておいて、じつはニーナのことが語られないのは当然で焦点はそこになかったのだとわかる終盤の展開はクレバーすぎて爽快な笑いが漏れた。
これは生まれ続けるこれからの“被害者”の、死ぬ寸前の悲鳴を聞かせるための物語だ。
ありがとう!
2023年7月23日