紙丑堂の業務日誌

ぼんやりしがち

RIKKA ZINE vol.1 感想

RIKKA ZINE vol.1』がすごく良かったんです。
TwitterのTLで見かけて、SFアンソロジーということ以外は詳細なんにも知らないまま、ただやたら面白そうな匂いがしたというだけでクラファンに滑り込み参加(雀の涙出資)させてもらったんだけど、収録されてる作品が全作、ほんとうにぜんぶ面白かった。
翻訳の(そして偶然かもしれないけど日本の小説も台詞的な部分以外は)一人称がすべて「私」「わたし」だったのも、とても良かった。
そしてなにより、構成の巧みさに脱帽しました。「Shipping」というテーマを軸に並べられた作品たちが、互いに呼応し、反射し、輝きを増していくのが本当に見事で、読み終わったとき感動してしまって小一時間ほど何も手につきませんでした。
そして、やおらこれを書き始めていました。

というわけで、全収録作のひと言感想です。
がっつりオチに言及しているやつもあるので注意してください。

■第1章

「とりのこされて」千葉集

飛脚の存在感が圧倒的だった。この生物の有するふてぶてしい重みと、それに相応しい温もりに実際に触れ、匂いを嗅いだ気さえする。その力強さをおそれ、憧れる兄弟のまなざし。どこか不気味な先生。「とりのこされ」たのは誰なのか。著者が『新月/朧木果樹園の軌跡』のエリマキキツネのひと! と気づいてから、あ、ああーーーーっ?! とさらに嬉しくなるなど。好きだなあ。

「時間旅行者の宅配便」レナン・ベルナルド

すごくリアルに感じられた作品だった。後味はにがい。だって少なくともあと200年以上は彼らの仕事に「補償」がつくことはないわけで……。そんなに長い時間が流れても人間て、社会ってそんななん? っていうつらさ。チップは、はずもう……(はずめる余裕のあるときは……)

「保護区」木海

小気味良い文章、目的が徐々に明かされていくサスペンスのドライブ感、世知辛い読み味のコントラストがとても面白かった。世界が完成していて、キャラクター小説的な愉しさもある。本誌口絵(でいいのかな?)のイラストをみた瞬間に「あ、『保護区』のイラストだ」とわかった。

「依然貨物」府屋綾

ものすごく好き。「予想外のカニ(Unexpected Crab)」で完全にやられた。わさわさと歩くカニたちの風景がありありと思い浮かび、いつまでも心に残る。「ありそう」な話なのもすごーーーーく好き。好き。額に入れて飾っておきたいとおもった。

「(折々の記・最終回)また会うための方法」伊東黒雲

SFで手記となると、先入観が働いてどういう仕掛けかという部分に注目して読み進めてしまうのだが、これは展開される景色が美しくて旅行記としてもすごく良いなと思った。語り手の軽やかさも良い。最後、かわいすぎて破顔した(いぬーーーーー!)

■第2章

「クリムゾン・フラワー」鞍馬アリス

おだやかな語り口で展開される、近未来でも変わらない余計者たちの孤独……なんだけど、ある漢字一文字が強烈な主張をしてくる……! ささくれの逆むけとかでもいいだろうに、よりによって人体の出口に出現する“奴”を……。この漢字一文字が連れてくる破壊的な力をはじめて意識した。さいごに「おほしさま」という言葉をチョイスしているのがすごく良い。ラストシーンの静かであたたかい寂しさも好き。

「きずひとつないせみのぬけがら」稲田一声

すごく好き。文章がうまい……。戦慄とふにゃっとした笑いが同時に来る力の抜け加減がすごく良い。夏の記憶の描写が美しい。そしてとんでもないモノとの邂逅譚の内側には、「私/おれ」を巡る孤独な戦いが隠されている。「私」の目の奥が震えるのと時を同じくして、読者のわたしも泣いていた。

「終点の港」阪井マチ

淡々とした文章が語る嘘八百っぽい「別世界」。良い! 移動する島、切実な思いで書き記された文化がフェイクとして消費される皮肉。書かれた言語が日本語だったせいで偽物認定が決定的なものになったというのが、なんかすごく可笑しかった。

「悪霊は何キログラムか?」根谷はやね

ふたりのいきいきとしたやりとりが魅力的で、怪談にもSFにもミステリにも落ち着かないストーリーとあいまってスルスル読んでしまった。シリーズ化したら楽しそうでもっと読みたい。ていうかゾンビ! ゾンビいいと思います!

■第3章

「波の上の人生」ソハム・グハ

恋人に向ける狂おしいまでの慕情と、この関係が露呈したらという緊張感、恐怖が息苦しい。どこにも逃げ場がない社会で、やっとみつけたよすがさえ壊される。怒ることに疲れ果てた哀しさが、次の瞬間に起きるであろう爆発と重なる気がして、何重にも悲しくなる。

「エリュシオン帰郷譚」灰都とおり

久しぶりに見る生身になんとなく慣れない、など、“現実”への眼差しというか遠近感というか、肌感覚が等身大に感じられる作品だった。仏教譚(?)パートと、るか&真那海パートの文章の書き分けも巧みで、優しくて冷たいエンディングも良い。

「残された者のために」ヴィトーリア・ヴォズニアク

ひとりの人間が内側に抱えこんでいられるものの重さに圧倒される。こんなに短い物語なのに、的確で繊細な描写を積み上げていくことで、ラストシーンの俯瞰の高さが高いこと、高いこと。すごい。胸が痛い。

「幸福は三夜おくれて」笹帽子

「残された者のために」のつらさをやさしく和らげてくれるような、暖かな物語。「さすがにねーよ!笑」といっしょに突っ込んでしまいたくなる、人懐っこいお話。親しい距離、こうであってくれ感。

■論考

「天翔ける超巨大宇宙貨物船 アレステア・レナルズ論」日本橋和徳

SF事情に無知すぎてぜんぜんわからんのですが、紹介されている“Ascension Day”の宇宙船描写が刺さりすぎてめちゃめちゃ読みたい……癖(ヘキ)です……となったのでアレステア・レナルズの名前を覚えました。えっ読みたいんだけど。

■第4章:

本章、最終章ということもあるのか、このあたりから積み重なった物語のハーモニーがあちこちで鳴り響いてすごいことになっていってすごいので、ぜひ収録順で読んでほしいとおもった。いやわからん、収録順じゃなくてもこうなるのかな? とにかくすごい。すごいしか言ってないな。

「宛先不明の人々」ロドリーゴ・オルティズ・ヴィニョロ

乾いた笑いがどんどん現実に重なってきて、苦笑いしつつハァ……とうんざりしてくるような読み心地がすごく好き。ほんと好き。(ミッシーってお前、と言葉に詰まってしまう。あまりにも酷いわ!)主人公の“標準っぽさ”も良い。自分の偽善を自覚できる程度には賢く、本人的には善良なつもりで、でも出来上がったシステムに立ち向かうほど強くもなく、そこで困り果てることまでしかしない程度には無責任。この無責任さ、「しょうがない」と逃げる狡さ・小心ぶりが自分と重なるようで刺さる。テーマ的に『バクちゃん』(増村十七)を思い出したりもした。

「スウィート、ソルティ」ファン・モガ

この小説から受けた感動を文章にすることができん……。圧倒的。ZINEの構成で良さが増幅されてる部分もあるとはいえ、流れるような記憶が波のように浮いたり沈んだりする文章のリズム、無駄のなさ、たたみかけてくる熱気などなど、ヒイイイイってなるくらい強い。圧倒的な強さ。

「海が私に手放させたもの」ジウ・ユカリ・ムラカミ

架空の舞台と思っていた「スウィート、ソルティ」が実は現実の話だったんだよとでも言われたような衝撃。小説と頭ではわかっていても、当事者の手記のように思えてしまう。手のなかに残されたお守りと去って行くシルエットの丸みだけが優しくて、記憶とは何なのか、について思いを馳せた。

「新しい星の新しい人々の」さんかく

これ好き……好き……。ひとつの文明が終わるとき。新しい人々の世界に思いを馳せて、すごくしあわせなきもちになる。語られることのすべてが愛おしい。えーん好き~~~~~~~~~!

「胡瓜より速く、茄子よりやおらに」もといもと

なんともしみじみ良い。滋味……。「首筋にヒヤリときたものが、風に揺れる会話の切れ端ではないと確認した人はいない。」ってすげーかっこいいね…… (こちらの著者も『新月』に参加されてるみたいで、まだそこまで読んでないので楽しみ……!)


以上、全19篇の感想。でした。
吐き出せてスッキリした。書くのに2日かかったのは、たぶんそれだけ濃かったので。Shippingというテーマからこれだけ壮大で複雑な世界が見られるなんて、小説ってすごいなともおもいました。
ところで、この感想文書いてて今さら気がついたんだけど、根谷はやねさんとさんかくさんって、根谷はやねさんとさんかくさんだ……!
サ!脳連接派のご本、とてもとても好きなので、なんか勝手に嬉しくなってしまいました。今後のご活躍もたのしみにしております……。日記にファンレターを書くな。

あ、あとこの『RIKKA ZINE vol.1』、物理本がペーパーバック仕様だったのも最高でした。ペーパーバック大好き! ペーパーバック大好きなんです! もっと増えて欲しいペーパーバック!!!!

結びもなく終わります。読みたい人は公式サイト内の「Rikka Zine Vol.1 Shipping」へGOだ。
おすすめです。